住宅の断熱性能を考える上では、省エネ基準のアウトラインを知っておきましょう。

高断熱住宅について、明確な定義がないことは、これまでのコラムでも触れてきましたが、そのため、様々な住宅会社が、自社の住宅がいかに素晴らしい性能であるかと、消費者を煙に巻くような宣伝文句を使っている広告が散見されます。大した性能ではない自称「高断熱住宅」をつかまないためには、省エネ基準の変遷とアウトラインを知っておくといいでしょう。

少し難しい言い方になりますが、省エネ基準とは、「建築物の運用時のエネルギー消費量を削減することを目的として定められた基準」ということになります。我が国の省エネ基準は、1970年代に起きたエネルギーショックに起因して、昭和54年に「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)が制定され、翌年に「住宅に係るエネルギー使用の合理化に関する建築主の判断基準」(昭和55年基準)が定められたのが始まりです。その後、平成4年、平成11年、平成25年に改正されてきています。そして平成28年に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」ができたことによって、省エネ基準の根拠法が変わっています。いずれにしても、あくまでも省エネルギーを目的として定められている基準です。

(2)欧米では、居住者の健康という観点から「最低室温規定」が定められています。

それに対して、欧米では、居住者の健康という観点から最低室温規定が定められています。「省エネ」という観点からのみで基準が定められている我が国とは大きく違う点です。

例えば、米国のニューヨーク州では、賃貸住宅のオーナー向けの規定として、6時~22時の間は20℃、22時から翌朝6時までの間は13℃以下にならないように定められています。つまり就寝時に暖房を消しても13℃以下にならないような断熱性能が求められているのです。これは、ニューヨーク州だけではなく、マサチューセッツ州など、少なくとも北東部8州では下図のように同様の室温規定が定められています。

また、英国では一定水準以下の賃貸住宅は、断熱改修をしない限り賃貸することが禁止されています。このように、欧米では寒い住環境が居住者の健康に悪い影響を及ぼすことを国が認めており、そのような劣悪な住環境を認めない方向で基準が定められているのです。

 

(3)我が国の歴代の省エネ基準には、消費者の誤解を招きがちな通称があるので注意が必要です。

我が国の歴代の省エネ基準には、消費者の誤解を招きがちな通称があります。昭和55年基準は「旧省エネ基準」、遥か昔の平成4年基準は「新省エネ基準」、平成11年省エネ基準は「次世代省エネ基準」といまだに呼ばれています。「次世代省エネ基準」は、20年くらい前の基準ですから、決して新しくも次世代でもない基準なのですが、そのような呼び方が今でも通用しています。そのためこの基準レベルの住宅を素晴らしい高性能住宅のように謳っている広告も多いので、注意が必要です。

 

ちなみに現在の基準は、一般的に「平成28年基準」と呼ばれています。

なお、現在の平成28年基準は根拠法が変わっただけで、平成25年基準と実質的にはほぼ同じものです。平成25年基準から「一次エネルギー消費量」という住宅の燃費性能の判断ができる概念が導入されています。MJ(メガジュール)の単位で示される住宅の一次エネルギー消費量の値を見れば、その住宅の燃費性能がわかるようになったのは大きな進歩だと思います。ただし、平成28年基準で要求されている断熱性能のレベルは、平成11年基準(次世代省エネ基準)からほとんど変わっていません。つまり日本の今の基準は約20年前の基準レベルのままであるということです。それに対して欧州の国々は、短いスパンで基準を改定し、どんどん要求水準が高くなっています。例えばドイツでは、下図に示すように、概ね35年ごとに基準を改定してきています。日本の現行基準のレベルは、ドイツの1984年基準と1995年基準の間くらいのレベルにあたります。そのため欧州の住宅の性能との差はどんどん開いているのです。

なお、平成11年には「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が制定され、住宅性能表示制度が始まっています。住宅性能表示制度における「断熱等性能等級」と「省エネ基準」の関係は次のようになります。

等級2                              :昭和55年基準相当

等級3                              :平成4年基準相当

等級4(最高等級)     :平成28年基準相当

つまり、こちらも広告でよく目にする「断熱等性能等級4(最高等級)の高断熱住宅」というのは、2020年までに義務化される予定の省エネ基準の断熱性能レベル、つまり数年後には最低基準になるレベルにすぎません。先進国中で最低水準の現行省エネ基準レベルをクリアしているのに過ぎず、決して高断熱と言えるレベルではないので、同様に注意が必要です。

(4)現在の省エネ基準では、断熱性能はUA値で示されます。

平成28年基準において、住宅の断熱性能は、UA値(ユーエーチ)で表されます。 UA値とは、「外壁」・「窓」、「屋根(天井)」、「床」などの各部位から逃げる熱量(熱損失量)を外皮面積(外壁・屋根(天井)・床の面積の合計)で割った値です。単位は、W/㎡・Kです。

UA値が小さいほど、熱を通しにくい家であることを意味し、「断熱性能」や「省エネ性能」が高いということになります。省エネ基準の地域区分は、下記の地図のように定められており、地域ごとにUA値の基準が定められています。横浜市は全域6地域に属しており、UA値の基準は0.87になります。

なお、UA値と同じように、家の断熱性能を示す指標として、Q値(キューチ)というものを聞いたことがある方がいるかもしれません。Q値とは、「外壁」・「窓」、「屋根(天井)」、「床」などの各部位から逃げる熱量(熱損失量)を床面積で割った値です。平成11年基準では、Q値が使われていたのですが、平成25年基準からUA値が使われるようになっています。UA値の0.87は、だいたいQ値の2.7に相当します。

(5)高断熱住宅の目安となるUA値はどのくらいでしょうか?

さて、横浜市や東京都、大阪市などのある6地域の気候エリアにおいて、高断熱住宅として確保するべきUA値はどの程度が望ましいのでしょうか? 高断熱住宅の定義は明確ではないため、目指すべきレベルは、建て主それぞれによって、また住宅事業者ごとにバラバラなのが現状です。

目安となる基準を順に挙げていきたいと思います。まず省エネ基準ですが、先ほど説明した通り、6地域のUA値の基準は、0.87です。このレベルの断熱性能で高断熱を標榜している住宅があることは今まで触れてきたとおりです。ただ、定義が明確ではないのですから間違いだとも言い切ることはできません。

次に、経済産業省、国土交通省、環境省の三省がここ数年、連携して普及に努めている省エネ住宅がZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス:ゼッチ)です。ZEHについては、別のコラムで詳しく触れたいと思います。ZEHの定義のひとつにUA値の基準(強化外皮基準)もあります。6地域では、0.6が基準になっています。そのため、「ZEH基準を満たす高断熱住宅」という広告も目にすることがあるかと思います。

さらに経済産業省は、2018年度にZEHのワンランク上の省エネ住宅として、「ZEH+(ゼッチプラス)実証事業」という補助制度を開始しています。このZEH+では、3つのうちから2つ選択する補助要件の1つに「外皮性能の更なる強化」として、6地域ではUA0.5という基準が示されています。

また、2009年から始まった断熱、省エネに関する有識者が集まった民間の団体としてHEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)というものがあります。このHEAT20は、住宅の熱的シェルターの高性能化と居住者の健康維持と快適性向上のための先進的技術開発、評価手法、そして断熱化された住宅の普及啓蒙を目的とした団体で、この分野のトップの専門家から構成されています。HEAT20のメンバーがまとめた「HEAT20設計ガイドブック」に、快適・健康性を考えて本当に必要な性能レベルとして、G1グレード・G2グレードが示されています。G1グレードは平成28年省エネ基準レベルを100とすると25パーセントのエネルギー削減で「省エネ・環境の質・コストのバランス解」と設定されています。また、G2グレードは40パーセントのエネルギー削減で「省エネ・環境の質のバランス解」と設定されています。6地域におけるG2グレードのUA値は0.46、G1グレードのUA値は0.56になっています。

これらが公的なUA値の基準になります。では、ZEH+のUA0.5、もしくはG2グレードのUA0.46レベルが、6地域における断熱性能の最高レベルかというとそうではありません。欧州基準の考え方をベースにした高気密・高断熱住宅を供給している一部のハウスメーカー・工務店のUA値は0.3を切っています。このレベルの性能の住宅にお住いの方々は、口をそろえて、非常に快適であり、生活自体が大きく変わったと言います。

多少、主観的ではありますが、高断熱住宅の目安となるUA値を整理すると、6地域で高断熱住宅を標榜できる最低レベルは、UA0.6以下だと思います。できればUA0.5もしくは0.46を切ることがベターでしょう。さらにそれ以上の性能が確保できれば、いままで我が国の住宅の性能からは想像できなかったとても快適な暮らしが手に入ることは間違いありません。可能ならばUA0.3以下が望ましいでしょう。

なおUA値は、同じ断熱材・窓等の外皮性能であっても、平面プランや窓等の開口部比率等によって、一棟ごとに異なることも理解しておきましょう。

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